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  • 今求められる企業経営の指針:「5人」を幸せにする会社

特別インタビュー企画「今求められる企業経営の指針」時代の流れにも負けない骨太経営のキーワードは「人」と「幸せ」。

目次 1.財形制度は人に手厚い企業のかなめ 2.好業績企業に「5つの言い訳」はない 3.「5人」を幸せにする会社

「5人」を幸せにする会社

——— では、「正しい経営」にするにはどうしたらよいのでしょうか。そもそも「いい会社」とは?

私が見てきた7000社の中の2割、何十年も増収増益を続けている会社を詳しく分析していくと、その約半数にある共通項を発見しました。そこから私の行き着いた結論は「企業経営とは、会社に関わりのあるすべての人々を永遠に幸せにするための活動である」というものです。

これまでは「企業経営とは、組織を成長発展させるための事業」「業績を高めるための事業」「シェアを高めるための活動」「市場で一番になるための活動」という価値観と判断基準でした。業績を高め利益を上げることが第一義だったのです。

しかし私の経営学では、いい会社はもれなく「会社に関わりのあるすべての人々を永遠に幸せにする」ことを第一義としています。これを実行実現できた会社でつぶれた会社はないのです。そして「人を幸せにする」ことを愚直真面目にやっている会社は、間違いなく成長発展しているし、シェアも高く、業績も良いのです。ですから業績は結果論だといえます。業績至上主義で、それを社員に求めるという経営ではこれからは立ちゆきません。

社員とその家族を一番目に置くという発想

——— そのカギになるのが「5人を幸せにする会社」ですね。

私は常々、会社には「5人に対する使命と責任がある」といっています。その5人とは、優先順位順に、「社員とその家族」「社外社員とその家族」「顧客」「地域社会」そして最後に「株主・出資者」です。

くわしく説明しますと、まず1人目の社員とその家族。経営者は、社員とその家族をまず一番に考えなさいという話です。これは理想とか理論ではありません。私が見てきた7000社の会社の1割、経営にぶれたことのない会社は、実際に社員とその家族を非常に大切にしています。創業以来一人のリストラも出していない、そういう会社がいくつもあるのです。

企業経営を考えたときに「この経営の考え方進め方が、本当に社員とその家族の幸せに寄与するかどうか」ということが決断力の軸になっているべきです。儲かるか儲からないかと考えると、正規にやらせるより非正規にやらせた方がいいんじゃないかなど、間違った方向に向かってしまいます。

結果として業績を上げるためには、社員のモチベーションが欠かせません。社員が「自分の会社は自分と家族を大切に考えてくれている」と思えてはじめてモチベーションは上がり、開発力や生産性も上がるのです。ですから社員とその家族の「幸せ軸」を一番先に大事にするべきなのです。

先日も社員3000人のある会社に行きましたが、そのうちの99%が正規社員なのです。もちろん社員のモチベーションや愛社精神は非常に高いです。なんといったって、正規社員の方が生活は安定します。非正規社員では、「来年契約更新してもらえるかどうか、それによって車を買うかどうしようか、子どもの大学は」と常に不安を抱えてしまいます。そしてこの99%正規社員の会社は、普通だったら非正規社員で代替するような仕事も正規社員がやっています。正規社員での率が高いほど、当然会社のコストは上がります。普通はそれによって利益が下がると考えますが、会社は利益を上げるためのものではない、利益は結果論だという経営者の決断力でしょう。そしてこの会社はずっと立派な業績を上げているのです。

私は会社は家族だと思います。経営者が社員を上から目線で見てはいけない、家族として見なさいといっています。

2人目は、仕入れ先、協力工場、下請け会社。こうした人々のことを私はあえて「社外社員」という言葉で表現しました。仕入れ先や下請けの方というのは、我が社ができない仕事をやってくれる存在です。自動車にしても2万点の部品の99%は協力工場や下請け会社が作っています。彼らがいなければ商品化することができないのです。

ところが外注費というのは製造原価明細書をみると、ほとんど経費もしくは材料費の中に入っていますから、経済が厳しくなるたびに、協力工場や下請け会社に無理なコストダウンを要求するわけです。しかし社外社員として捉えれば、我が社の社員と同じように考えられるはずです。もし我が社が5%の利益を出しているのなら外注先にも5%の利益が出るような単価で発注してほしい。支払いも手形より現金、翌々月末払いより今月と、相手を思いやってあげることです。 そういう関係が築ければ、いざというときに「よし、あの会社のためにやってやろう、徹夜でも何でもしてやろう」と、本当の意味での協力会社になるのです。

3人目は顧客。「お客様のニーズに応える」「お客様が欲しいものを創造する、提供する」のが会社ですから、顧客を幸せにする使命と責任があります。「あなたの会社がこんな商品を創ってくれてよかった」と顧客に感謝されるような製品やサービスを提供する。またそのことによって顧客の心が和む、幸せになる、感動する。これが三番目に大切な使命と責任です。

従来はこれが一番最初で一番大事とされていました。しかし、そうしたお客様のニーズやウォンツに応えるのは社員です。ですからお客様も大事ですが、社員はもっと大事なのです。

4人目は地域住民、とりわけ社会的弱者です。社員でも家族でも仕入れ先でもない、会社に直接関係ない人たちです。しかし、地域に住んでいる方々であって弱い立場にある方々に対して、企業市民として手を伸ばし心を馳せましょうということです。

長野県伊那市の食品メーカーは、広大な敷地内に誰でも自由に入ることができて、丘の上では幼稚園児たちがピクニックをしていたり、おじいさんとおばあさんがひなたぼっこをしていたりします。また付近の交通安全のためにわざわざ歩道橋を造って町に寄付しているのです。

弱い人々の代表というのは、障がい者や高齢者の方々です。たとえばいま日本では774万人ぐらいの方に障害者手帳が交付されていますが、極端にいえば、人間は加齢すれば程度の差こそあれ誰でも身体に支障をもちます。ならば彼ら彼女らに手をさしのべるというのは当たり前の人間学ではないでしょうか。企業市民として、彼ら彼女らに雇用の機会を与えてほしいです。人間は、誰でも働くことを通して人に必要とされたり、人からほめられたり、感謝されたりしてはじめて幸せを感じるのです。万一、我が社ではまだ雇用が難しいというのであれば、彼らが働いたり就労訓練しているところで作っている商品を売ってあげるとか、買ってあげればいいのです。

私が作った経営語録百か条の中に「私たちができない正しいことをしている人々がいたなら、私たちのやるべきことはその人を支援する」というものがあります。支援するというのはお客さんになることです。

最後の5人目は株主や出資者です。これも大事な一人です。特にスタートアップの時は彼らの資がなければできないわけですから。けれども先の4人の幸せを達成することができれば、5人目は自然に幸せになります。5人目の人に対する経営者の責任は、赤字を出さないということですが、赤字を出さないためには健全な経営をすることです。そのために先の4人の幸せを追求すれば、自ずと結果は出てくるものなのです。

経営の使命と責任は「利他の心」

——— では、そのために経営者はどのような意識改革をするべきでしょうか。

まずは「自分が社員だったら」という基本に立ち返ることでしょう。自分が社員だったら、自分が障がい者だったら、自分が80歳の高齢者だったらどういうことを経営者にしてほしいかを改めて考えてみてください。自分よりも他人の利益を考える「利他の心」を貫くことです。

次に、企業経営の使命と責任を勘違いしないでくださいと言いたいです。繰り返しになりますが、企業の最終目的は業績ではありません、人々の幸せの実現です。もしも万一不況になって従業員3割に辞めてもらうような状況になった場合、私が経営者なら自分の給料を99%カットするでしょう。そして副社長の給料は98%カット、ただしそれはせいぜい課長まで。社員には賞与は支給できない、賃上げもできないかもしれない、しかしそれは理由を蕩々と話せばいいのです。実際にそのようにした会社で、労働組合側が私たちの給料も下げてくださいと言ってきた例もあります。一生懸命やっている経営陣に負担をかけて、私たちも努力が足りませんでしたから、私たちの給料も下げてくださいと。まさに会社は家族だといえるのではないでしょうか。

本当の意味でのリーダーシップを今こそ

そして、経営者は会社の中で一番いい仕事をするということです。リーダーシップを背中と心で示す。リーダーシップは、権威や権限ではありません。人が嫌がる仕事にも自分が先頭に立ち、むしろ修羅場だからこそ自分が先頭を行くという姿勢を示すことです。背中というのは、誰よりも勉強し誰よりも苦労しているという生き様です。

長野県伊那市の食品メーカーでは、あるとき女性社員が勤務中に足に大けがをしたのですが、社長は「社員にそんな大けがをさせるような仕事を人間にさせていた会社側に問題がある」といって、まったく採算の合わない非常に高額のロボットを導入したことがあるそうです。普通なら気を付けなきゃだめじゃないかとなるところなのに、すばらしいと思います。これが本当のリーダーです。

私の経営語録百か条に、「人の優しさは涙の量に比例する」というものもあります。名経営者の共通項として、非常にご苦労されている、苦しんだ過去をもっている方が多いことも挙げられます。その苦労は尋常じゃありません。たとえば、前出の食品メーカーの社長さんの学歴は中学校卒です。肺結核という、生きるか死ぬかの病気をしたからです。当時は伝染病だとされていたので隔離されて、二度と外で青空を見ることもないだろうと覚悟していたそうです。それが回復し、ましてや働くチャンスを与えられたのですから働けるだけで嬉しく、がんばってとうとう認められ社長になっていくわけです。苦労や苦難を重ねてきた経営者は、社員の喜びも悲しみも苦しみも、みんな自分のことのようにわかるのです。だから社員とその家族を第一にと、ごく当たり前に考えられるのでしょう。

 
プロフィール紹介
坂本 光司(さかもと こうじ)
法政大学大学院 政策創造研究科 教授

1947年静岡県生まれ。法政大学経営学部卒業後、静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授等を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授・同経営大学院(MBAコース)兼担教授。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会委員長、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長等、公務多数。主な著書に『日本でいちばん大切にしたい会社』、『小さくてもいちばんの会社―日本人のモノサシを変える64社』、『会社は家族、社長は親』他多数。

 
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